やがて、飴色に満ちる And Then — Filled with Amber / Solo Exhibition / 2026
back to list秋。 桑の枯れ枝で満たされた桶の中に、 一つの白い繭があった。 養蚕は、 蚕の習性を生かした美しい仕組みの上に成り立っている。 蚕は、 蔟 ( まぶし ) の中へ登り、 それぞれが繭をつくる。 しかし、 その中には、 桑を食べる桶に残ったまま繭になる個体、 まぶしから抜け出し、 更に登って蚕室の柱に刺繍をするように糸を吐く個体、 二匹で一つの繭をつくる個体もいた。 まぶしの中で整然と繭をつくる蚕も、 その外で繭をつくる蚕も、 それぞれが異なる場所で生命を全うし、 どの繭も同じように美しく輝いていた。 私は、 その光景から目を離すことができなかった。 秩序は生命を支えている。 けれど、 その秩序はすべてを同じ姿へ導くものではない。 そこには必ず揺らぎが生まれ、 それぞれ異なる時間が流れている。 それらは、 どんな生を生きたとしても、 生命は最後まで生命だった。 私はこれまで、 「 resp. 」 シリーズを通して、 生命活動の重なりによって立ち現れる現象や、 その中に持続する揺らぎを見つめてきた。 群馬で養蚕や製糸をリサーチする中で出会った蚕たちも、 それまで探求してきた生命観を、 一つひとつの生命の姿として目の前に見せてくれた。 呼吸。 体内を流れる水の音。 植物が芽吹き、 伸びていく動き。 自然のリズムの中で移ろう生命のふるまいを見つめ続けることは、 生の実感が希薄になっていた自分自身の感覚を取り戻す行為でもあった。 私は、 生命であることを忘れないために作品をつくっている。 繭をつくる時期を迎えた蚕は、 身体を体液で満たし、 陽の光に当てると飴色に輝きながら透ける。 その状態を 「 ズウ ( 熟蚕 ) 」 と呼ぶ。 終わりへ向かうその姿は、 不思議なくらい生命が満ちているように見えた。 私たちもまた、 それぞれ異なる時間を生き、 それぞれ異なる姿で変化を重ねていく。 やがて、 飴色に満ちる。
暗がりのなか、 どこか生物を思わせる柔らかな材質のオブジェが、 穏やかで温かみのある動きをゆっくりと繰り返している。 古代より絹織物の産地として知られる桐生市で開催された、 内藤愛の個展 『 やがて、 飴色に満ちる 』 では、 作家自らが 「 生命と環境との応答関係を指し示す 」 と語る 『 resp. 』 シリーズから、 3つの作品が出展されている。 会場の有鄰館は、 濃密な歴史を感じさせる土蔵・レンガ蔵からなる建築群。 それぞれの作品に、 個別の土蔵が与えられているため、 鑑賞者は一つ一つの作品としっかりと対峙できる。